アンカリング効果とは?心理学での意味や使い方についてわかりやすく解説
- アンカリングってどういう意味?
- アンカリング効果はマーケティングにどんな効果があるの?
- アンカリング効果を上手く使ってマーケティングを成功させたい!
マーケティング戦略で重要な役割を果たしているのがアンカリング効果です。
アンカリング効果とは人間の経済行動を表す心理学用語で、「認知バイアス」という自分の思い込みや周囲の環境といった要因により非合理な判断をしてしまう心理現象のうちのひとつとされています。
心理学的な観点からだと難しく感じてしまいますが、実際の成功例、失敗例などを参考に身近な心理現象として考えるとわかりやすいですよ。
この記事ではアンカリング効果とマーケティングの活用例や具体例、注意点などをわかりやすく解説していきます。
また、アンカリング効果はマーケティングで使われる心理的効果と思われがちですが、人間関係や恋愛においても有効です。
こちらも詳しく解説していきますので、ぜひ読んでいただき自己プロデュースにもお役立てくださいね!
では始めましょう。
最初に見た数字が心理的に影響する「アンカリング効果」とは
アンカリング効果とは、最初に与えられた数字や情報を基準とすることで、あとから提示された数字や情報に対する認識が変わる心理的効果のことです。
心理学者であり行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによる認知バイアスについての共同研究の中で見出されました。
バイアスとは人の思考における思い込みや先入観、偏見、差別、傾向を指します。
どんな人でも思考にはバイアスがかかっていているため、限定された合理性しか持ち合わせていません。
つまり自分の頭で考えて判断していると思っていても、実は多くの無意識の思い込みが働いているというわけです。
このことを心理学では認知バイアスと呼びます。
例えばいつも飲む100円のジュースを買いに行ったら、普段は150円するジュースがセール品として100円で売られていたら思わず買ってしまいませんか?
ここには「いつものジュースはおいしい、だからそれよりも定価が高いジュースはもっとおいしいはず、それが100円なんてお得だ」という先入観や偏見、思い込みのバイアスに加え、「普段より安くなっていてお得だ」というアンカリング効果が働いているのです。
このようにアンカリング効果は、最初に与えられた数字・情報から離れて考えることができず、そのあとに提示された別の数字・情報への認識に影響してしまう認知バイアスなのです。
アンカリングの語源
アンカリングとは船のアンカー(錨)を下げて船をつなぎとめることをいいます。
海底にアンカーを打っておくと船はその場に留まりますよね。波に流されることもありません。
この様子から、人が数字や情報といったアンカーを打たれ、そこから身動きが取れないという状態を例えているのです。
先ほどのジュースのアンカーは150円という金額です。味の違いを確かめようと50円多く払ったのに、たいして違いがなかったり口に合わなかったとしたら、なんだか損した気持ちになりますよね?
でも通常より50円も安いのであれば「100円ならまぁいいか」と思えます。
これはもともと無自覚に「150円の商品なんだ」と意識が固定されているため、自分が損したとは思わないのです。
実際にアンカーを「下ろした」とわかっていても、海底に沈んで見えなくなってしまうと、そこに繋ぎ止められているということはわからなくなってしまいます。
この見えてはいないけど鎖に繋がれて動くことができない船と、無意識のうちに数字や情報に繋ぎ止められている心理的状況が似ていることから、アンカリング効果と名付けられました。
「フレーミング効果」との違い
アンカリング効果と間違えやすい心理的効果に「フレーミング効果」というものがあります。
アンカリング効果が最初に基準となる数字や情報を提示するのに対し、フレーミング効果とは強調する部分を変えることで問題に対する印象や視点を誘導することです。
「こうしてほしい」とこちらからは言えないけど「こうしたい」と言ってほしい、そんな場面でフレーミング効果が力を発揮します。
例えばあなたが手術を受けることになった場合「この手術が成功する確率は95%です」と言われたら「ほとんど成功しているなら受けても大丈夫」と手術することにあまり抵抗を感じないですよね。
しかし「この手術は5%の確率で失敗する可能性があります」と伝えられたら「もしかしたら失敗するのかもしれない。手術をやめようかな?」と不安に思うことでしょう。
結論としては同じことを言っているのに、切り取る部分によって印象が変わりその後の選択が変わってしまう、つまり提示側の出してほしい答えに誘導できるのがフレーミング効果です。
このようにフレーミング効果はアンカリング効果と同様、情報の伝え方1つで物事の印象を変える心理的テクニックです。
しかしアンカリング効果は「最初に提示する情報を基準にしてもらう」、フレーミング効果は「特定の情報を強調し誘導する」といった情報の伝え方に違いがあるということを理解しておきましょう。
なぜアンカリング効果は起こるのか
商品を購入するとき、最初にピンときたものを選ぶことが多くありませんか?
実はこれもアンカリング効果が働いているのです。
人は何かを判断するときに、あらかじめ基準を決めようとします。
例えば何かを買うときに判断材料がそろっていないと、最初に見た情報を商品の基準としてしまう傾向が強いのです。
最終的に最初ピンときた商品を購入してしまうのも、アンカリング効果によるものと言えますね。
では実際にどういう思考の流れで最初に見た商品を購入してしまうのか、Tシャツを買いにお店に行った例で見てみましょう。
Tシャツを購入しようとお店に行き、最初に2000円のものが目に入ったとします。
隣の棚には良く似たデザインの1000円のTシャツ、反対側には5000円の少しおしゃれなTシャツが置いてあります。
この場合、最初の2000円のTシャツを基準に後に見た1000円のTシャツ、5000円のTシャツのメリットやデメリットを考えてしまうでしょう。
「1000円は安いけど洗濯したらすぐヨレヨレになりそうだな」
「デザインはおしゃれだけど5000円は高いな」など最初に見た2000円のTシャツを基準として、その後の思考が展開していきます。
もし先に目に入ったのが1000円のTシャツであれば、2000円のTシャツは「似たようなデザインなのに金額は倍だ」となりますし、5000円のTシャツは「おしゃれだけど1000円のTシャツが5枚買える」「良いものはそれなりの値段だな」なんて考えそうですよね。
そして最終的には「結局これが一番いい!」と最初に選んだものを購入してしまうのです。
このようなアンカリング効果は、高い専門知識や経験を持っている人にも影響すると言われています。
不動産業者を対象におこなった不動産査定に関するアンカリング効果の実験では、最初に参考として見せられた販売価格が、実際の査定価格に影響することがわかっています。
その道のプロというような人が数字や情報を与えられただけで認識が変わるなんて信じられませんよね?
つまりどんな人でも思考にはバイアスがあるため、アンカリング効果が起こるのです。
【ビジネスから恋愛まで具体例】アンカリング効果の使い方
数字や情報を提示しておくだけで買い手の購買意欲を高められるアンカリング効果は、マーケティングの仕組みのひとつとして重要な役割を担っています。
企業は販売促進の戦略として「これはお得だ!」と思えるアンカーを打つと、売上に一定の効果が得られるので、アンカリング効果とマーケティングは相性のいい組み合わせといえますね。
また人間関係においてもアンカリング効果は役立ちます。
1人の人間が何か行動を起こしたとき、その結果はひとつしかありませんが、自分という人間をどの位置にアンカリングするかによって周りの評価は変わるのです。
ここではアンカリング効果を上手く使った例をご紹介していきましょう。
使い方①商品の広告戦略
チラシやPOP、インターネット広告など、その店の商品を紹介する媒体はたくさんありますよね。
そこに必ずといっていいほど表示されているのが「メーカー小売希望価格」や「当店通常価格」です。
この価格がアンカーとなります。そして購入者はこの価格を基準としてどれだけお得かを考えます。
先ほどのTシャツの例では、購入者が最初にアンカリングしたのは2000円のTシャツでした。
しかしそこに販売者の「売れ残った通常価格10000円のTシャツを5000円に値下げして売り切りたい」という仕掛けがあったとしたらどうでしょう?
目立つように「当店通常価格10000円から50%OFF」というPOPがあれば、そちらに目が行き「えっ!半額なの!?すごく安い!!」と飛びつきたくなりますよね。
このように販売者の意図を感じさせることなく売りたい商品を売り込むことができるのも、アンカリング効果のひとつです。
使い方②商品やサービスの価値を高める
アンカリング効果には価値を高める効果もあります。
テレビショッピングなどで「50組限定!この商品に、もうひとつ同じものを付けてお値段据え置き」「今から30分以内のご注文で送料無料!」という場面を見たことありませんか?
これは早い者勝ちや期間限定といった特別感へのアンカリングで、この機会を逃してしまうと「お得に買えない」「損をする」と感じてしまう効果です。
インターネット広告では「このページをご覧いただいているお客様へだけの特別ご奉仕価格」なんてコピーも見かけますよね。
限定というアンカリングには、購入者がその商品やサービスに高い価値を感じ、今すぐ買いたくなる効果があります。
使い方③営業の見積書
車や家などの購入を検討するとき、営業マンが見積書を出してくれます。
その際、見積書はだいたい2パターン準備されていませんか?
営業マンは、まず1つ目の見積書でオーダー通りの金額を提示しておき、2つ目の見積書である程度値引きした金額を提示します。
そして「本来ならばこれだけの金額がかかるのですが、ここから企業努力として特別に値引きさせていただきます!」と企業側の誠意と、どれだけお得に買えるか購入者に伝えます。
すると1つ目のオーダー通りの金額がアンカリングとなり、購入者は「これだけ安くなるなら」とまだ交渉の余地があるのにもかかわらず購入を決める可能性があるのです。
購入する側は、最初に提示された金額と、後から提示された金額の差が大きいほどお得に感じます。
このように見積書の提示の仕方1つでアンカリング効果が働くため、商談をスムーズに運ぶことも可能です。
使い方④店舗の商品ディスプレイ
店舗の外観や入り口付近の商品ディスプレイはその店のイメージのアンカリングとなります。
落ち着いた外観の店舗の中に高級感あふれる家具や家電が品よく並べられていたら「この店は高いものばかりあるんだろうな」と思いますよね。
この時点で「ここは高級店」とアンカリングされます。
しかし奥に進んでいくと、入り口付近に置かれていたものより値段の安い商品が置かれていたら「あら、意外とお値打ちなものもあるのね」と認識が変わるのです。
この店が高級店であるというアンカリング効果から「簡単に買える金額じゃないな」「ここで買い物をすると自慢の種になるな」「商品はどれも間違いのない品物なんだろうな」などの認識を持ちます。
そこに「自分にも手が届く金額の商品がある」といううれしいサプライズがあれば、同じ商品でも他の店ではなくこの店で買いたい!と思えますよね。
これとは逆に安さが売りの店の奥に高級品コーナーがあると、高級店より安く買えるのではないかと感じます。
これも最初にこの店は安いと感じた、イメージによるアンカリング効果と言えますね。
使い方⑤日常や人間関係
自分が失敗したときや何か試されているときにも、アンカリング効果で周囲からの評価を上げることができます。
例えば朝、出勤しなければいけないのに、前日に夜更かししてしまい寝坊した場合、まず上司に遅刻の連絡を入れますよね?
会社までの通勤時間は30分、急いで準備をしてすぐに出れば45分で着きます。
そのとき上司になんと伝えるとよいでしょうか?
「今から急いで出れば45分後に出勤できます!」と正直に伝え、慌てて家を出て45分後ピッタリに出勤できたとしても、それだけでは「寝坊して遅刻してきた人」というイメージしか残りません。
では、どうすればイメージをよくできるでしょう?
答えは「1時間後に出勤できます!」と到着時間を多く見積もることです。
「1時間後に来る」とアンカリングされれば、45分で到着したとき「思ったより早い」と印象が良い方へと変わり、「寝坊して遅刻した」というネガティブなイメージが「努力して早く来た」というポジティブなイメージに変えることができるのです。
ただ、この手は何度も使えませんのでまずは寝坊しないように気をつけてくださいね。
このことから、自分の上限目いっぱいをアンカリングするのは得策ではないことがわかります。
自分の能力を過剰に演出すると、それができなかったときの自分の価値に対する損失は大変なものですよね。
自分の価値を下げないため、また相手から安心して仕事を任せられるという信頼感を得るためにも、アンカリング効果は有効です。
使い方⑥恋愛の駆け引き
好きな人に好きになってもらうためにもアンカリング効果が有用です。
まず好きな人のこれまでの恋愛経験から「恋人にしたい人のアンカー」と「恋人にしたくない人のアンカー」を知ることが大事です。
そしてその基準に沿って自分を演出し、さらには自分がいないときでも思い出してもらえるようアンカリングをしていけば、自然と意識してもらえるようになるでしょう。
恋人にしたいアンカーになり得るのは、見た目や相手にこうされるとうれしいなと感じることです。
好きな人の好みの芸能人がわかれば、どんな見た目が好きなのかわかりますよね。顔は変えられませんが雰囲気を似せることはできます。
また、もし過去の恋愛からマメに連絡を取りたいタイプであるとわかったのなら、LINEをすぐ返したり、SNSの投稿に素早くリアクションしたりすると効果的でしょう。
また、過去の恋愛は恋人にしたくないアンカーでも参考になります。
別れた原因が、束縛が激しい、異性の友達が多い、仕事が忙しくなかなか会えなかったなどという場合、これらの理由が恋人にしたくないアンカーとなります。
しかし、このような恋人にしたくないマイナス要因はそれを知り、避けることで恋人にしたいアンカーに変わるのです。
したがって、できるだけ元恋人とは違う自分を演出するのが得策ですね。
その上で自分がいないときにも、ふと思い出してもらえるアンカリングをしておきます。
例えば
- いつも同じ缶コーヒーを飲んでいる
- 好きな食べ物や趣味の話をする
- 会うときは決まった香水をつけていく
などです。
そうすれば、コンビニや自動販売機で缶コーヒーを見かけたとき、TVでその食べ物や趣味が紹介されたとき、すれ違った人からあなたと同じ香水の匂いがしたとき、相手はあなたを思い出します。
アンカリング効果で相手の日常にあなたの存在が影響し始め、意識してもらえる可能性は高くなるでしょう。
しかし人の気持ちはそう簡単にはわからないもの。まずは相手を良く知り、自分を知ってもらうことが肝心ですね。
【やりすぎに注意】アンカリング効果を使う際に気を付けること
何事においてもいえることですが、やりすぎるのはよくありません。
これまで紹介してきたアンカリング効果も、やりすぎてしまうと相手に悪い印象を与えてしまいます。
自分を良く見せようとしたり、話を盛りすぎたりすると、事実と異なっていたときにアンカリングが悪い効果を与え、これまでの信用を失いかねません。
また最初はお得だと思って利用してたものでも、その状況が長期間続くとそれが当たり前のこととアンカリングが変わってしまいますよね。
ここではこのような信頼を失った事例を紹介しながら、実際にアンカリング効果を使うときに気を付けたい点を、わかりやすく解説していきます。
注意点①二重価格表示は不当表示になる
二重価格表示とは、先ほどから例にあげてきた「通常価格150円のジュースが、セール品につき100円」や「当店通常価格10000円のTシャツが50%OFF」のように、元値と割引された実際の売値を一緒に表示することで安さを強調する表示方法です。
これはアンカリング効果を使ったマーケティングとして最も簡単で誰もができる手法ですね。
しかしこの表示方法、うっかりしていると「景品表示法」という法律で罰せられてしまう可能性があるのです。
ある靴販売店で通常10000円で販売している靴に「通常価格20000円のところ本日限り50%OFF!」と書いて販売したところ、消費者庁から指導を受けました。
なぜでしょう?
この通常価格とはセールや値下げのないときに販売されている価格として実績のあるものを指しています。
しかし、この店では靴を20000円の値札をつけて販売した実績はなかったので、景品表示法での処分の対象となってしまったのです。
このようにありもしない通常価格や、その商品の価値としては不釣合いな金額を提示し、あたかもお得に買えますよ、という販売方法は悪徳商法と言われても仕方ありません。
景品表示法を知らずにやってしまったとしても、その内容はインターネットで公表され、場合によっては報道の対象となります。
その結果「あの店、セールといっても信用ならない」「普段の売値も不当なんじゃないかしら?」などと、法律違反した店というアンカリング効果が働き、評判が悪くなってしまうでしょう。
二重価格表示自体は法律違反ではありません。
カタログに記載されていたり、販売の実態があったりすることが求められますが、メーカー希望小売価格やライバル店の販売価格は認められています。
消費者庁のガイドラインに沿って、不当表示にならないよう配慮することが大事ですね。
注意点②長期的にやると逆効果
期間限定のキャンペーンだったものが、そのあとも続いたため当たり前になってしまい、お得感がなくなった、という例もあります。
Amazonの配送料無料キャンペーンは、みなさんの記憶にもあるかと思います。
Amazonではもともと、2000円未満の商品に配送料を取っていました。
しかし2010年ごろ、期間限定で無料キャンペーンを始めたのです。
そのキャンペーンはとても好評で売り上げも伸びたことから、そのあともキャンペーンを延長していました。
ほどなくして他社も配送料無料を始め、ネットで買ったものは配送料無料が当たり前となっていったのです。
ところが2016年4月、Amazonは突然無料配送を打ち切り有料へ戻しました。
無料が当たり前と思っていた購入者からは当然不満が噴出し、一大論争となりましたよね。
長期に渡るキャンペーンをおこなうと、いつのまにかアンカリングが入れ替わってしまい、元に戻しただけなのにネガティブな印象を与えてしまったという実例でした。
アンカリング効果は期間を限定しておこなう方が、良い結果に結びつきます。
まとめ
ここまでアンカリング効果について解説してまいりましたがいかがだったでしょうか?
最後にこの記事の要点をまとめます。
- アンカリング効果とは認知バイアスのひとつ
- アンカリング効果はマーケティングの仕組みとして重要な役割を担っている
- マーケティングだけでなく人間関係や恋愛においてもアンカリング効果は有用
- 使い方を間違えると自分にネガティブなアンカリングがされてしまう
- 長期的なアンカリングは効果を失ってしまう
アンカリング効果について理解を深め、上手く利用すれば物事を有利に運ぶことができます。
その反面、同じ効果を長続きさせることは難しく、アンカリング効果がなくなってしまうケースもあるので、マーケティングに活用する場合は十分な知識や検証が必要です。
重要なのは、商品やサービスを必要以上に良く見せようとするのではなく、消費者の立場に立って考え活用することです。
ビジネスや日常生活でアンカリング効果をうまく取り入れ、商品の価値や自分の価値を高めていってくださいね!