アリストテレスの弁論術とは?相手を説得するために必要な3つのスキル
- 人前で話すなんて慣れてないし緊張する
- どんな順番で話していいのかわからない
- 話すからには最後まで飽きずに聞いてほしい!
急に大勢の人の前で話すことになってしまったら、どうすればいいか困ってしまいますよね?
アリストテレスの弁論術には相手を説得するためのヒントがたくさん書かれています。
この記事ではアリストテレスの弁論術についてわかりやすくご紹介していきます。
人前で話す力を身につけたい方、話を聞いてもらえる方法を知りたい方、自信を持って話したい方はぜひ参考になさってください。
相手を説得する「アリストテレスの弁論術」とは
アリストテレスは「万学の祖」といわれており、彼によって確立された弁論術は、哲学、倫理学、政治学、心理学などあらゆる学問の要素を含んでいます。
また、修辞学や問答法といったテクニックも使われており、古代ギリシャにおいて聴衆を魅了し扇動する方法のひとつでもありました。
アリストテレスは弁論術を「どんな問題でもそれぞれの可能な説得の方法を見つけ出す能力」と定義しています。
自分の主張が正しいと押しつけたり、相手の意見を頭ごなしに「間違いだ」と言い負かしたりするのではなく、まず自分への信頼や好意を勝ち取って相手の心を動かします。
そのうえで納得のいく説明をおこない、自分と同じ結論に達するよう導くことが弁論術なのです。
弁論は「論理的であること」「心に響くこと」「自分を信頼してもらうこと」が大切です。
弁論の目的によってそれぞれ重要度は違いますが、これを踏まえておくとその場にあった弁論をすることができ、相手によりわかりやすく意見を伝えられるようになります。
この方法は2000年以上前から使われており、人を説得するためのテクニックで弁論術を超えるものは未だにありません。
現代の日本において人を扇動するなど、過激な目的で使われることはありませんが、自分の意見を相手に伝える能力を向上させるには適しています。
人が説得されるのはどんな時?
弁論は「議会弁論」「法廷弁論」「演説的弁論」の3種類に分けられます。
それぞれ「未来」「過去」「現在」と説得する目的が違うため、まず相手がどういうことで説得されるのかを知ることが大事です。
会社でプロジェクトを発足させるときを例に見てみましょう。
どのような内容か、それによっての利益はどれだけ得られるかなどを話し合うのが、未来を論じる「議会弁論」にあてはまります。
リーダーがチーム全員にプロジェクトの内容を伝え、取り組む姿勢やチームの結束を強くするために話をするのが、現在を論じる「演説的弁論」といえます。
プロジェクトを終え、成功や失敗、反省点などを振り返り話し合うのが、過去を論じる「法廷弁論」といったところでしょうか。
このように、ひとつの流れの中でも弁論の種類を使い分けて話をする必要があります。
知りたいのは利害なのか、それとも経緯なのか、どういう人の話ならしっかり聞いてくれるのか、ニーズに合わせた話し方を選ぶことで相手を説得することができるのです。
ここでは未来、過去、現在の視点から、3種類の弁論について深掘りしていきます。
相手を説得する目的を知り、その場面に合った話をしていきましょう。
未来の「利益と損失」の話をするとき
これからやろうとしている未来のことに対して、自分にとっての利害を考えるのが議会弁論です。
感情は入れず、論理的に淡々と事実を積み重ねて主張していくので、アリストテレスは「術策の余地がない」と弁論術に記しています。
国会などでは議題に対して「反対意見」と「賛成意見」がそれぞれ弁論され、それを聞いた上で採決を取り、行動を決めていきます。
このとき「かわいそうだから」とか「みんな喜ぶから」といった表現はあまり使われませんよね?
「不利益になる」や「国の財産となる」など利害を表す言葉が使われます。
子供のころに「携帯を買ってほしい」と親にねだるとき、「みんな持ってるから」などと漠然とした理由で伝え、「みんなって何人ですか?」と一蹴されたことはありませんか?
弁論術を知っていれば、「お手伝いをする」「この先1年はおねだりしない」など親に料金を負担してもらう損失に対する補填を提案できたことでしょう。
また「友達とよりよい関係を築ける」「親も自分の位置情報がわかって安心」という利益の面も伝えれば、効果的に説得できたかもしれませんね。
このように、これからこうしたい、こうなりたいなど先の見えない話をするときは、なによりもまず論理的であること、矛盾がないことが相手を納得させる重要なポイントとなります。
過去の「正と不正」を証明するとき
やったことが正しいか正しくないかを説得する場面が法廷弁論です。
「法廷」という通り実際に起きてしまった事故や事件、結果について話し合うこと、つまり裁判というとわかりやすいですね。
罪を犯したという証拠や、その罪を犯した経緯、情状に鑑みてそのおこないは正しいのか間違いなのかを当事者に説得します。
法廷弁論では、正か不正かを目的に語ることで弁論が成立します。
この罪は正か不正か、この人は正か不正か、これを明らかにしていくことが弁論によっておこなわれているのです。
冷蔵庫のプリンを食べただけで責められたことはありませんか?
自分は家の冷蔵庫にあったプリンを食べただけで、悪いことなどなにもしていませんよね?
しかし相手は怒っているわけですから、あなたが悪いことをしたと思っています。
「自分は悪くない」という感情と「あなたが悪い」という感情は、それぞれ「プリンを食べた」という行動の正当性と不当性の弁論です。
このように、過去のできごとに対して、正か不正かお互いに説得しあうのも身近な法廷弁論の形といえるでしょう。
その場で「称賛に値する」と感じたとき
スピーチや演説の内容が素晴らしいと、聴衆から称賛を受け納得してもらえます。
こういったその場で聞き手を説得することを演説的弁論といいます。
大勢の前で意見を述べたり、道理や意義を説き明かすことも、この演説的弁論のひとつです。
この場合何が正しいかではなく内容がいかに素晴らしく美しいか、そして納得できるかを基準に、聞き手が称賛に値するかどうかを判断します。
相手に理解してもらいたいときや賛同を得たいときに有効な弁論です。
例えばiPhoneを発表する際の「2年半、この日を待ち続けていた」というフレーズから始まるスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンは、歴史的名プレゼンと言われていますよね。
音楽・電話・ブラウザ、3つの機能を1つの製品に搭載したiPhoneは「電話の再発明だ」とプレゼンをおこなった直後から、さまざまなメディアで発信されトレンドとなりました。
これはジョブズ氏のプレゼンが素晴らしく聴衆が称賛に値すると感じたからこそです。
期待のあおり方や間の取り方、サプライズや時にユーモアを交え聴衆の心をつかむジョブズ氏のプレゼンは、現在でもお手本と言われています。
このように聞き手が納得し、称賛に値すると思えるのが演説的弁論です。
弁論術はどんな人におすすめ?
- 新人教育のためオンライン講師を任された
- 新開発した商品を社外プレゼンすることになった
- 営業職なのでお客様とコミュニケーションをうまくとりたい
- チームリーダーとしてみんなをまとめたい
このような人前で話す機会がある方に弁論術はおすすめです。
わかりやすくスマートに話してくれる人の話は、自然と聞きたくなるものです。
ためらうことなく自信を持って話しているので、相手の信頼も得られやすいですよね。
説明などの論理的部分はもちろんですが、聞き手がどんな人で、話し手のことをどう思っているかも重要です。
というのも、弁論術では聞き手に合わせて話し方や言葉を選び、また話し手に好意を持ってもらうことで、話を聞き理解してもらえるからです。
ぶっきらぼうで胡散臭い人の話は信用できませんよね。
また正論しか言わない人の話は「これが正しい」と自分のやり方を押しつけたり、相手が否定されたように感じたりすることもあり、素直に受け入れられません。
しかし話し手の印象が良いとそれだけで内容もスッと入ってきます。
そこに共感や好意が生まれることで、聞き手はより一生懸命に話に耳を傾けてくれるでしょう。
また今の時代、不用意な発言はデジタルタトゥーとして残ってしまう可能性があります。
さらに、自分では意識していなくてもハラスメントと受け取られてしまうかもしれません。
大勢に向けて発信する機会が多い方は、自己防衛という意味でも弁論術を身につけることをおすすめなのです。
【わかりやすく解説】弁論で相手を説得する3つのスキル
弁論で相手を説得するときに必要なスキルは3つあります。
自分の人柄を信頼してもらう「エートス」、聞き手の感情に共感する「パトス」、論理的な話し方をする「ロゴス」です。
このどれかひとつでも欠けていると弁論として完成とはいえません。
聞き手にしっかりと理解してもらい、納得した上で行動に移してもらえるように説得するのが弁論術だからです。
自慢話ばかりでなかなか本題に入らなかったり、情に訴えるだけで根拠がなかったりすると、話を聞いていて楽しいものではないですし最後まで聞こうとは思わないですよね?
聞き手の負担になるような話し方や内容ではなく、自分の主張と、どういう行動をとってほしいかを、簡潔で効果的に伝えられるのが「エートス」「パトス」「ロゴス」のスキルです。
これから詳しく解説する3つのスキルを使いこなせるようになれば、長々と説明することなく、短い時間でも聞き手にしっかり伝えることができますよ。
スキル①【エートス】話す人の人柄で信頼してもらう
エートスは「信頼」や「人柄」を指します。
「いつもの場所」という意味から転じて習慣や出発点、特徴なども意味しています。
つまり、話し手の基本的人格として「信頼できる人柄」が大切だという意味です。
「聞く人の信頼を得ることが大切だ」とアリストテレスも書の中で記しているように、説得において聞き手に「信頼できる人間だというイメージ」を持ってもらうことは何より大切です。
胡散臭い人の話は真剣に聞こうと思わないですし、聞けば聞くほど疑わしさが増していきますよね。
信頼できる人柄として挙げられる要素は「思慮深い人」「道徳的な人」「友好的な人」です。
こういった要素がそろい、好感度が上がることで人は自然と信頼されるようになります。
弁論の中で初対面や画面越しの人に対しても、信頼を得られるようなアピールは大切ですが、やりすぎると嫌味になってしまうので、謙虚さも忘れないようにしましょう。
スキル②【パトス】聞く人の感情に共感する
パトスは「共感」を指します。
話し手の感情を聞き手にも同じように感じてもらうことが大切です。
なぜなら、聞き手の感情によって自分の印象や話す内容の解釈が変わってしまうからです。
自分がリラックスしているときとイライラしているときでは、人の話を聞くときの姿勢に違いがあると感じることはありませんか?
天才的な扇動術を持っていたヒトラーも、聴衆が仕事を終えてホッとしている夕方を選んで演説していたといわれているくらい、聞き手の感情は演説が成功するか否か鍵を握っているのです。
そのため、弁論の中ではまず聞き手が自分と同じ感情を抱くストーリーを織り交ぜ、相手の気持ちをコントロールすると良いでしょう。
TVショッピングや実演販売の方はこのストーリー構成が上手ですよね。
生活の中の困りごとを「実は自分も困ってます」と聞き手と同じ目線で悩みを共有し、解決策を提案する形で商品を紹介していきます。
共演者や観覧者の合いの手や納得の声などもあり、「これは便利だから欲しい」「いいものがお得に買える」という感情をストーリーで盛り上げているのです。
聞き手の感情を刺激する言葉や反応をうまく使い、こちらが意図する感情を相手に抱かせ、その感情に共感することで説得がしやすくなります。
このようにパトスは「聞き手に自分と同じ感情を抱かせるテクニック」で、聞き手の感情を味方につけ有利に話を進めるためのスキルというわけです。
スキル③【ロゴス】論理的な話し方
ロゴスは「論理」「理屈」を指します。
物事の道理やあるべき筋道といった、唯一無二の正しい考えといった意味を含みます。
ただ、先ほども述べたように正論だけを言われても納得してもらえません。
ですから、話す相手に合わせて言葉やリズムを変え、事実に基づいた主張をすることが大切です。
アリストテレスは話す相手の分類を、家柄や貧富、運、年齢、性別など細かく分けてどのように対応するか丁寧に記しています。
弁論は決して理詰めの正論という意味ではなく、相手の知識レベルや立場を考え、伝わりやすい話し方や受け入れやすい内容であることが論理的な話し方だということを伝えています。
難しい言葉で理屈を語られてもさっぱり頭に入ってきませんが、わかりやすい言葉で物事の道理を教えてもらえれば耳を傾ける気になりますし、理解も早いですよね。
「相手に理解してもらうための論理的な話し方」も弁論において重要なスキルとなっています。
思考の整理には、マインドマップが役立ちます。こちらの記事も、ぜひあわせてチェックしてください。
【相手をうまく説得するコツ】「エートス」「パトス」「ロゴス」最も重要な要素は?
「エートス」「パトス」「ロゴス」それぞれの役割として
- 自分が信頼できる人間だというイメージ
- 聞き手に自分と同じ感情を抱かせるテクニック
- 相手に理解してもらうための論理的な話し方
を挙げました。
この中で相手を説得するのにもっとも重要な要素は「エートス」です。
話し手はまず自分を信頼してもらわないことには話を聞いてもらうことすらできません。
一度でも不祥事を起こすと仕事が減ってしまう芸能人のように、その人のイメージというのは本人に対して大きな影響力を持っています。
「この人は信頼できる人」と印象づけるために、丁寧で親切な態度が重要です。
そのうえで、次に重要となる要素は「パトス」です。
感情の共有をすることで、同じ方向を向き同じ結論に導くことができます。
「一緒にがんばりましょう!」という励ましは、信頼する相手に言われてこそ効果がありますよね。
感情を共有し行動を起こさせるには信頼関係が必要です。
聞き手に信頼してもらい、話し手と同じ気持ちに立ってもらわないといくら論理的に話をしても聞き入れてもらえない可能性があります。
よって最後が「ロゴス」となるのですが、ないがしろにしてよいというわけではありません。
相手に理解してもらうための論理的な話し方は「丁寧で親切な態度」にもなります。
それは「エートス」、自分が信頼に足る人間であると証明することにつながります。
そしてそこで生まれた「パトス」、共感を信頼できるものと相手が思うことで「ロゴス」、本当に伝えたいことに対する賛同を得られるからです。
つまり「エートス」「パトス」「ロゴス」がそれぞれが影響しあうことで、より信頼と説得力のある弁論ができるのです。
アリストテレスの弁論術を学ぶのにおすすめの本
アリストテレスの弁論術を学びたい、もっと詳しく知りたいという方にはこちらの本がおすすめです。
タイトル:『弁論術』
著者:アリストテレス 戸塚七郎(訳)
出版社:岩波書店
今まで当たり前におこなわれてきた弁論に対してアリストテレスが疑問を持ち、こうあるべきだという主張と、それをどう展開するかの方法を記した弁論術の教科書です。
哲学書ということもあり、とっつきにくいかもしれませんが、「説得は技術である」というアリストテレスの言葉通り、技術を磨くヒントがたくさん書かれています。
従来の弁論との比較や、弁論術の定義や種類、聞き手の分析や働きかけ、演技や表現などが細かく記されていて、話し方のコツや聞き手が耳を傾ける方法なども身につくでしょう。
論理的思考や表現、心を動かす話し方などに興味のある方は、一度手にとってみてくださいね。
まとめ
今回の内容をまとめます。
- 弁術論とは、どんな問題でもそれぞれの可能な説得の方法
- 弁論術は人前で話すために必要なスキル
- 人が説得されるのは「現在」「過去」「未来」を話し合うとき
- 弁論において「エートス」「パトス」「ロゴス」3つの要素が重要
弁論術を知ることで、人前で話す力を養い、ひいては自分を表現することができます。
相手への印象をよくしたり、自分の意見に賛同してもらうなど、弁論術はコミュニケーションツールとしても有効です。
この記事を参考に、ビジネスにもプライベートにも生かせる弁論術をぜひ学んでみてくださいね。