インボイス制度がイラストレーターに与える影響や対策をわかりやすく解説
- イラストレーターはインボイス制度によってどんな影響を受けるの?
- インボイス制度の導入で収入が減ったらどうしよう…
- 出版社から適格請求書発行事業者への登録を依頼されたけど、どうしたらいい?
2023年10月のインボイス制度の導入に伴い、今後の活動に不安を抱いているイラストレーターは多いことでしょう。
企業との取引が多いイラストレーターのなかには、すでに交渉や相談をされている方もいますよね。
この記事では、インボイス制度がイラストレーターに与える影響とその対策について詳しく解説していきます。
対策を知ることによって、インボイス制度によって受ける影響を最小限に抑えましょう。
イラストレーターがインボイス制度の影響を受けやすいと言われる理由
多くのイラストレーターがインボイス制度へ反対の声をあげていますね。
その理由は、イラストレーターの多くが個人事業主として活動しているため、インボイス制度による影響を受けやすいと言われているからです。
イラストレーターがインボイス制度の影響を受けやすいと言われる理由は「イラストレーターには免税事業者が多い」ことと「取引先が法人(課税事業者)の場合が多い」ことの2つです。
まずは、この2つの理由について詳しく見ていきましょう。
理由①イラストレーターは免税事業者が多い
イラストレーターがインボイス制度の影響を受けやすい理由として、「イラストレーターには免税事業者が多い」ことがあげられます。
実際に協同組合日本イラストレーション協会が実施したアンケート調査によると、回答したイラストレーター241名のうち87.6%を占める211名が「免税事業者」という結果がでていますよ。(※1)
インボイス制度によって大きな影響を受けるのは、売上高が1,000万円以下の免税事業者です。
というのも、インボイス制度が導入されると取引先企業が仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)が必要になります。
適格請求書(インボイス)はインボイス登録をした課税事業者しか発行できません。
つまり、適格請求書(インボイス)の発行ができないイラストレーターに対する発注は仕入税額控除の対象外となるため、取引内容を見直される可能性が高くなるのです。
さらに適格請求書(インボイス)を発行するために登録をして免税事業者から課税事業者になったとしても、それまで免除されていた税を納める必要が出てくるので結果的には収入減となってしまいます。
イラストレーターの多くを占めるのが免税事業者なので、インボイス制度による影響を受けやすいのです。
(※1)協同組合日本イラストレーション協会|【結果報告】インボイス導入についてのアンケート
理由②取引先が法人(課税事業者)の場合が多い
イラストレーターがインボイス制度の影響を受けやすいもう1つの理由として「取引先が課税事業者の場合が多い」こともあげられます。
一般の顧客や免税事業者を相手に取引をしている場合は、適格請求書(インボイス)が発行できなくても問題ありません。
インボイスは課税事業者が消費税納税の際におこなう仕入控除に必要で、一般の顧客や免税事業者は、仕入控除をしないからです。
しかし、イラストレーターの取引先は、出版社や広告代理店、Web製作会社、そしてゲーム制作会社などの法人(課税事業者)であることがほとんどです。
繰り返しにはなりますが、課税事業者の取引先が仕入控除する際は、イラストレーター(仕入先)の発行したインボイスが必要です。
仮に、課税事業者の出版社と取引きをしているとしましょう。
インボイス制度が導入されてからも免税事業者のイラストレーターと今まで通りの条件で取引を続けると、出版社側はイラストレーターからの適格請求書(インボイス)が得られないことによって、仕入税額控除ができなくなります。
すると出版社側は消費税分の負担が増えてしまいますよね。
課税事業者の取引先は負担を減らすために取引を見直す可能性が高まってくるのです。
インボイス制度がイラストレーター(フリーランス・個人事業主)に与える3つの影響
免税事業者のイラストレーターはインボイス制度の影響を受けやすいことが分かりましたね。
では、具体的にはインボイス制度の導入によってイラストレーターが受ける影響とはどのようなものなのでしょうか。
次は、インボイス制度がイラストレーターに与える影響を見ていきましょう。
影響①ほかのイラストレーターに仕事が流れる可能性がある
ひとつ目の影響は、ほかのイラストレーターに仕事が流れる可能性があることです。
取引先企業がイラストレーターのイラストを購入する場合、これまで認められてきた仕入税額控除ができなくなるため、消費税を支払う負担が大きくなるからです。
もしも、ご自身が業界の担当者だとしましょう。
ご自身が関わっている企画でイラストレーターの作品を採用したいと考えています。
同じ実力のイラストレーターが2人いるとして、一方は免税事業者、もう一方はインボイスを発行できる課税事業者の場合、どちらを採用しますか。
ほとんどの方が、消費税の負担を考えインボイスを発行できる課税事業者のイラストレーターを採用するでしょう。
インボイス制度導入後は、仕入税額控除ができる、あるいはその分安く仕事を請け負ってくれるイラストレーターに仕事が流れてしまうおそれがあるのです。
影響②値下げ交渉をされる可能性がある
仮にほかのイラストレーターに仕事が流れずに済んでも、取引先から値下げ交渉を持ちかけられる可能性もあります。
インボイスの発行ができないと、取引先の納税額が増えてしまうことはお伝えしましたね。
これまでと同じ条件でイラストレーターとの取引を続けると、取引先は控除されない消費税の負担が増えてしまうのです。
取引先としては今まで通りの利益を確保したいと考えるので、「インボイスが発行できないのであれば報酬を見直したい」と交渉をしてくる可能性があります。
できれば値下げせずに現状通りの取引を進めたいところですが、値下げしないことで安く請け負ってくれるほかのイラストレーターに仕事が回されてしまっては意味がありません。
仕事を受注する上では値下げ交渉に対して、厳しい選択を迫られるわけですね。
影響③適格請求書発行事業者への登録を依頼される可能性がある
値下げ交渉のほかに、インボイス登録を取引先から依頼される可能性もあります。
適格請求書(インボイス)を発行できるのは登録をした課税事業者(適格請求書発行事業者)のみです。
なので、取引先側からするとインボイス制度が始まってからもこれまで同様の取引を進められる方法として、イラストレーターへ適格請求書発行事業者への登録を依頼するケースもあります。
確かに取引先との仕事や新たな仕事の獲得において、課税事業者となって適格請求書発行事業者に登録した方がメリットが多いように感じますよね。
しかし、課税事業者になるとこれまで免除されていた消費税の納付義務が新たに発生します。
免税事業者の場合は消費税の納付義務が免除されるので、消費税はそのまま免税事業者の利益となっていました。
いわゆる「益税」ですね。
もしも、課税事業者になった場合、その益税が得られなくなってしまうため、収入減につながるおそれがあります。
いずれにしてもイラストレーターの受ける影響は大きいのです。
イラストレーターができるインボイス制度への対策3つ
それでは、イラストレーターが取れるインボイス制度への対策はあるのでしょうか。
考えられるのは、次の3つです。
イラストレーターはインボイス制度による影響を受けやすい職業ですが、しっかりと対策を取ることで収入や仕事面へのマイナスを抑えることができますよ。
これら4つの対策について詳しく見ていきましょう。
対策①インボイス登録をして適格請求書発行事業者になる
現実的な対策が、インボイスに登録する方法です。
益税はなくなりますが、インボイスが発行できるので取引先とのやり取には問題がないので仕事を失うリスクを減らせます。
年間の売上が1,000万円以下だと「免税事業者」で、1,000万円を超えると「課税事業者」なのはご存じの方も多いですよね。
しかし、インボイス登録をすると売上1,000万円以下であっても課税事業者となり、消費税納税の義務があるので注意してください。
消費税の納付義務が発生して収入が減ってしまうデメリットがあるので、仕事を増やせる見込みのあるイラストレーターやもともとイラストレーターでの収入が少なく納税による影響を受けにくい人向けの対策と言えるでしょう。
対策②イラストレーターとしての腕を磨く
イラストレーターの場合、「適格請求書発行事業者への登録がない(=免税事業者である)」ことが、すなわち「仕事がなくなることにつながる」わけではありません。
なぜなら、イラストレーターにとって価格以上に重要視されるのが作品のクオリティだからです。
そのためイラストレーターとしての腕を磨くこともインボイス制度への対策として有効ですよ。
唯一無二のイラストレーターになって「この人でなければダメだ」と取引先から選ばれる存在となれば、取引がなくなったり、値下げ交渉をされる可能性を減らせます。
仕事を受注し続けるためにはイラストレーターとしてのスキルを上げて揺るがない価値を持つことが大切なのですね。
「免税事業者のままでいるか、それとも課税事業者になるか」などインボイス制度について考えることも必要ですが、替えがきかないイラストレーターになれるよう腕を磨くことも忘れないようにしましょう。
対策③取引先との信頼関係を築く
日頃から取引先との信頼関係を築くことも、インボイス制度への有効な対策となります。
免税事業者に対する取引先企業の対応は、企業によって異なります。
従来通りに取引を続けてくれるのか、あるいは値下げ交渉を求めてくるのか、それとも取引中止でほかのイラストレーターに仕事が流れてしまうのか、その判断は企業次第です。
しかし、取引先との信頼関係を構築することによって、もしも取引中止になりそうな事態に陥っても、イラストレーターと取引先との間でお互いの落としどころを見つけられる可能性が高くなります。
お互いにWin-Winの関係で、良い仕事を継続できるよう相談をしましょう。
インボイス登録の際は「簡易課税制度」も検討しよう
インボイス制度への対策として「簡易課税制度」を選択するのもひとつの手です。
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担を軽減するために設けられた制度です。
売上にかかる消費税額に対して、事業ごとに応じたみなし仕入率を掛けることによって、仕入控除額を計算します。
イラストレーターは経費額がそれほど大きくありません。
通常の消費税納税の際に行う仕入控除だと、仕入れに係る消費税が少額になることから、簡易課税制度を選択したほうが納税額を抑えられるケースも多いです。(※)
- 実際の仕入れにかかる消費税額<みなし仕入率を用いた仕入にかかる消費税額
国税庁の公式サイトにある通りイラストレーターは第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、飲食店業を除くサービス業)に該当するため、みなし仕入率が50%となります。(※2)
ただし、簡易課税制度を利用するためには事前の申請が必要です。
ご自身の納税地を管轄している税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出してください。
制度が適用されるためには「前々年の課税売上高が5000万円以下」「2年間は、他の課税制度に変更することができ」など条件や、提出期間があるので検討している方は早めに確認をしましょう。
(※)消費税納税額は売上に係る消費税から、仕入れに係る消費税を引いて計算されます
(※2)国税庁|No.6505 簡易課税制度
選択するためには事前の申請が必要
本名を公表したくない!インボイス制度でイラストレーターの本名バレを防ぐ方法とは?
適格請求書発行事業者への登録を行うと国税庁の「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」から、登録番号で事業者の個人情報を確認できます。(※3)
事業者の氏名が必須で表示されることから、ペンネームや本名以外の名前で活動されているイラストレーターにとって「本名バレ」は、懸念される事項ではないでしょうか。
しかし、本名バレを防ぐための対策は2つあります。
その方法は下記の通りです。
これらの方法について、次で詳しく見ていきましょう。
(※3)国税庁|適格請求書発行事業者公表サイトの運営方針|2 公表事項
方法①「媒介者交付特例」を活用する
本名バレを防ぐための方法として、「媒介者交付特例」の活用があげられます。
媒介者交付特例とは、委託者であるイラストレーターと出版社などの課税事業者との間に、媒介者である受託者(中間業者あるいは仲介業者)を挟んで取引が行われる場合、媒介者がイラストレーターに代わって適格請求書を交付できる制度です。
媒介者を挟む取引としては、委託販売が良い例ですよね。
媒介者の氏名と登録番号を記載した適格請求書を発行することにより、イラストレーターの本名バレを防ぐことができます。
しかし、間に業者を挟むために、直接取引に比べて報酬が少なくなるといったデメリットもありますよ。
また、この特例を適用するためには、次の要件を満たしていなくてはなりません。
- 委託者(イラストレーター)と受託者(中間業者あるいは仲介業者)の双方が適格請求書発行事業者であること
- 委託者は、自分が適格請求書発行事業者の登録を受けていることを、取引前までに受託者に通知していること
要件やデメリットはあるものの名前を絶対に知られたくない適格請求書発行事業者のイラストレーターにとっては、有効な方法と言えますね。
方法② 取引先との間で秘密保持の契約を結ぶ
取引先との間で秘密保持や拡散防止のための契約を結ぶのも、世間に本名が知られないための方法です。
適格請求書発行事業者であるイラストレーターの場合、取引先には本名がどうしても分かってしまいます。
それにもかかわらず、ご自身と一緒に仕事をしていることをうっかりSNSで晒してしまうような担当者がいる取引先だと、安心して仕事ができませんよね。
インボイスを発行した際に知りえたイラストレーターの個人情報に関して、第三者に公表あるいは拡散しない旨を盛り込んで契約を結びましょう。
秘密保持の契約を結ぶことによって、本名バレのリスクを低減させられます。
まとめ
ここまで、インボイス制度がイラストレーターに与える影響や対策について解説していきました。
最後に、この記事で紹介した内容をまとめてみましたので、振り返ってみましょう。
- イラストレーターは免税事業者が多く、課税事業者の取引が多いのでインボイス制度の影響を受けやすい
- ほかのイラストレーターに仕事が流れたり、値下げ交渉や適格請求書発行事業者への登録を持ちかけれたりする可能性がある点がインボイス制度によってイラストレーターがうける影響
- インボイスに登録したり、簡易課税制度を選択することがインボイス制度への対策として有効
- 取引先との信頼関係を築き、イラストレーターとしての腕を磨いてインボイス制度の影響を軽減する
- 媒介者交付特例を活用したり、取引先との間で秘密保持の契約を結んだりすることで本名バレを防ぐことができる
インボイス制度にどのように対応していくかは、今後のイラストレーター活動において重要です。
まずは、インボイス制度による影響や課税事業者になるメリット・デメリットを知り、ご自身の売上や取引先との関係を踏まえてどのようにするのか決めましょう。