【業界別】リブランディングの事例一覧!20の成功事例と5の失敗事例から学ぶ
- リブランディングの成功事例が知りたい!
- 失敗例もいろいろと聞くから、リブランディングに慎重になってしまう
- どうしたらリブランディングが上手くいく?
さまざまな理由から、リブランディングを検討している担当者の方は多くいらっしゃるかと思います。
新たな顧客を獲得したり、企業価値を向上させ長く愛されるためにはリブランディングは非常に重要な役割を果たします。
しかし、リブランディングのやり方次第では、逆効果になる可能性もあるので気をつけなければいけません。
ここでは、リブランディングの具体的な成功事例と失敗事例を業界別にご紹介します。
この記事を読めば、リブランディングを成功に導く戦略を身につけることができますよ。
リブランディングの意味とは?
「リブランディング」とは「ブランディング(branding)」に「再び」という意味の接頭辞”re”をつけた言葉で、「ブランド再生」や「ブランド再構築」を意味します。
分かりやすい例として、ロゴマークや商品パッケージの変更、サービスの見直しなどが、リブランディングの一環として挙げられます。
しかし、単純にロゴマークや商品パッケージを変えるだけがリブランディングかというと、そうではありません。
社内の組織や意識の改革はもちろん、顧客との関わり方や顧客への訴求の仕方などについても考えていく必要があります。
これまで育ててきたブランドを、変化する時代の流れや顧客の嗜好などに合わせて、あらゆる視点から再構築していく取り組みがリブランディングなのです。
なぜリブランディングが必要なのか?
リブランディングが必要な理由は、簡単に言えば、ブランドを時代の変化に対応させるためです。
企業活動には浮き沈みがあり、時代によって好調なときもあれば、不調なときもありますよね。いつの時代でも売れ続けるブランドであるためには、テコ入れが必要なときがあるのです。
テコ入れが必要なときには、ポジティブな動機とネガティブな動機の2つの動機があります。
まず、ポジティブな動機としては「創業○○周年」を記念して、ブランドイメージを一新したり、ロゴやエンブレムの視認性を高めたりするといったことなどがその一例ですね。
次に、ネガティブな動機としては、競合の台頭や顧客の商品離れによるブランド力や売上の低下が挙げられます。
これらのタイミングで、ブランディングを見直すことによって、ブランド力をいっそう強化する狙いがあります。
リブランディングを行うことで、これまで育ててきたブランドの問題点を洗い出せば、ブランド力の改善につながります。
また、既存のブランドを維持することで、新たなブランドを作るのに比べて、コストもかかりません。
今まで育て上げたブランドを守ることに加え、新たなブランドを立ち上げることで生じるコストを抑えるためにも、リブランディングは必要不可欠なのです。
業界別!リブランディングの事例まとめ表
この記事ではさまざまな企業によるリブランディングの成功事例と失敗事例をご紹介します。
まずは、この記事でご紹介するリブランディングの事例を簡単に表にまとめました。
詳しい内容はこの後の記事で紹介していますので、気になる事例をぜひご覧ください。
〈リブランディングの成功事例〉
業界 | 企業名・商品名 | リブランディング成功事例 |
---|---|---|
化粧品業界 | カネボウ化粧品 | 「美しい人生」から「I HOPE.」へコンセプトの転換 |
雪肌精 | 若い購買層へアプローチし、新たな価値を提示 | |
オルビス | 通販イメージを脱却し新たなビューティーブランドへ | |
ポーラ | 創業時からのポーラの想いを再定義し、価値を見直す | |
アパレル業界 | ユニクロ | おしゃれで機能的な定番ブランドとして甦ったユニクロ |
ティファニー | 伝統を受け継ぎつつ、新たな変化を目指したチャレンジ | |
バーバリー | 老舗から若者向けのモードブランドへと転換し、ブランド復活へ | |
有名企業 | ヤンマー | 「デザインの力」で企業イメージをまとめあげ、認知度アップ |
マツダ | ユーザーのニーズを徹底して取り入れた製品作り | |
ショウワノート | ターゲットを子供から大人に変更して大ヒット | |
タニタ | 「人々の健康づくりに貢献する」という存在意義のもと大きく飛躍 | |
食品業界 | キリンレモン | ブランド価値を伝えるパッケージ変更とターゲット変更で売上増加 |
ポカリスエット | 中高生を新たなターゲットに「青春の味」を確立 | |
湖池屋 | 老舗の価値を見直しポテトチップスのプレミアム化に成功 | |
ココナッツサブレ | 懐かしさを活かしたニューレトロで若年層にアピール | |
祇園辻利 | 老舗茶屋としてのブランド力の向上 | |
スポーツ業界 | ユベントス | 他クラブとの差別化や収益化につなげたエンブレム変更 |
清水エスパルス | 伝統を時代に合わせてアップデート | |
サービス業界 | スーパーホテル | 多彩な強みを活かした再構築 |
サンリオピューロランド | 大人の女性をターゲットにして集客率アップ |
業界 | 企業名・商品名 | リブランディング失敗事例 |
---|---|---|
食品業界 | コカ・コーラ | 消費者の反発を受けたコカ・コーラの味変更 |
ウィダーインゼリー | パッケージデザインやカテゴリー変更により売上が減少 | |
化粧品業界 | shiro | 性急すぎる変更で公式の謝罪にまで発展 |
ルナソル | 消費者の反感を買った大幅な値上げ | |
飲食業界 | バーガーキング | 消費者を困惑させただけのロゴマーク変更 |
【化粧品編】コスメブランドのリブランディング事例
ここでは、大手コスメブランドのリブランディングの事例を取り上げて見てみましょう。
化粧品といえば、どこのブランドも「美」を求めていました。しかし、ブランドの伸び悩みをきっかけに、美の向こうにあるさらなる価値を求めてリブランディングを図るようになったのです。
リブランディングによって掲げられた新たな価値は、各ブランドごとに個性があります。その個性をこれからご紹介するコスメブランドから感じとってみてくださいね。
- コンセプトの転換「カネボウ化粧品」
- コーセー看板商品のリブランディング「雪肌精」
- 通販イメージからの脱却「オルビス」
- 自社の価値を見直した「ポーラ」
コンセプトの転換「カネボウ化粧品」
カネボウ化粧品は、多様性を尊重する時代に合わせて「KANEBO」のコンセプトを「美しい人生」から「I HOPE.」へと転換した成功事例です。
2016年にカネボウ化粧品が立ち上げた「KANEBO」は、日々美しさを積み重ねていくことが美しい人生に繋がるというコンセプトをもとに、世界の女性に向けて作られたグローバルプレステージブランドです。
しかし、「KANEBO」はコーポレートブランドのイメージは強くあるものの、他のコスメブランドに比べて個性が弱く、際立った商品がありませんでした。
そこでカネボウ化粧品は「KANEBO」ならではの個性を打ち立てるため、2020年に大胆なリブランディングを行ったのです。
「希望を語る」をブランドのパーパス(存在意義)として定め、化粧は見た目を美しくするだけではなく、希望をもたらし未来をも切り拓く力があると定義したのです。
さらに、メインターゲットもエイジレス・ジェンダーレスとし、ダイバーシティの時代にマッチングした誰もが使える商品を展開しはじめました。
パッケージも黒に統一して、個装フィルムの削減や再生資源の利用など、環境にも配慮したものに変えたのも印象的です。
KANEBOは時代の流れに合わせて希望を発信するブランドへと変貌し、個性の確立に成功したというわけですね。
コーセー看板商品のリブランディング「雪肌精」
世界の潮流の変化に合わせるために看板商品である「雪肌精」のリブランディングを行って成功したのがコーセーです。
「雪肌精」は1985年に発売されたコーセーのロングセラーブランドです。肌の透明感へコミットしたことや、薬瓶をイメージしたデザインから、発売当初はたいへん画期的な商品として業界から評価されました。
1993年に医薬部外品となってからは、美白効果も訴えるようになり、着実に幅広い顧客層から支持を得て息の長いブランドへと成長したのです。ところが、競合ブランドからも美白効果を訴える商品が増えたこともあり、2019年には売上が減少してしまいます。
そこで、コーセーは新たなアプローチとしてこれまで大きく書かれたブランドロゴを小さくしたり、シンプルなボトルデザインへと変更しました。これは、マーケティング調査の結果から、若い世代の間では化粧水を無地のボトルに移し替える人も多いことが判明したからです。
また、グローバル市場を見据えてブランドロゴもローマ字で「SEKKISEI」へと変更しました。そして、パッケージもサステナブルの視点から環境に配慮した再生可能なものに変わっています。
リブランディングの効果もあり「SEKKISEIクリアウェルネス」は、20~30代の購買層が5割を占め、リピート率も従来のコーセーの新製品に比べて5割増しと順調なスタートを切っています。
従来のラインナップも維持することでこれまでの顧客層を尊重しつつ、リブランディングによって、若い購買層に向けて新たな価値を提示したのが「雪肌精」なのですね。
通販イメージからの脱却「オルビス」
「オルビス」は、リブランディングによってポジショニングの見直しを行い、「モノ」ではなく「コト」にアプローチすることで通販イメージを脱却しました。
ポーラの通販部門が独立し、1987年に事業展開を始めたのが「オルビス」です。通信販売を通して100%オイルフリーの化粧品を、手頃な価格帯で提供したことで成長を遂げました。
ところが、他社でも自然派の化粧品を取り扱うようになったことに加え、Amazonや楽天といったECプラットフォームが台頭してきたことで、オルビスの優位性が失われてきたのです。
そこでオルビスは「スキンケアを中心としたビューティーブランド」を目指し、これまでの通販イメージからの脱却を図ったのです。
2018年8月に新ブランドメッセージ「ここちを美しく。」を発表したのに続いて、10月には「ORBIS U」をリニューアルしました。「肌本来の力を引き出す」という創業以来のコンセプトのもと、エイジングケアを目指す「スマートエイジング」を提唱したのです。
その結果「ORBIS U」は販売から2か月で圧倒的な売上を記録したのです。
さらに、2020年7月には、表参道に体験特化型施設「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」をオープンさせました。
通販主体だったころのオルビスは、顧客との結びつきはカタログやデータ、キャンペーンといった「モノ」だけでした。
しかし、新生オルビスは顧客に「ここちを美しく。」を体験してもらうなど、「コト」によって顧客との結びつきを深めるよう取り組み、通販イメージからの脱却に成功したのです。
自社の価値を見直した「ポーラ」
1929年の創業以来、化粧品の訪問販売で成長を遂げ、大手4大化粧品メーカーの一角をなしている歴史ある企業の「ポーラ」は、2016年1月にリブランディングに踏み切りました。
「ポーラ」のリブランディングが成功した理由は、創業以来の自社の価値を見直したことと、安定した売上を維持していたもののいち早く危機感を感じたことです。
まずは、企業理念として「Science. Art. Love.」を掲げました。
「科学に裏付けされた商品群/人の手が生み出す技やおもてなし/愛あふれる関係を築くこと」という、創業時からのポーラの想いを再定義したのですね。
そして、ロゴの色を変更したり、店舗や紙バッグに使用される「POLA Dots」の図案といったビジュアル面の改革を行いました。さらに社内改革も実施し、結果よりもプロセスを重視する評価に切り替えたのです。
また、メルセデス・ベンツやパナソニック、意表を突いたところではT-TRAVELやサンリオピューロランドといった異業種とのコラボレーションも盛んに行われるようになりました。
ユーザーにも改めてポーラの価値が伝わったことが功を奏して、ポーラの高級ラインである「B.A」は、シリーズ全体でベストコスメ257冠受賞も達成するほどとなったのです。
創業以来の価値を時代に合わせて改めて見直すことにより、リブランディングが成功した事例と言えますね。
【アパレル編】ファッション業界のリブランディング事例
ファッション業界のリブランディングは、とても大胆なものが多く見られます。
有名ブランドになればなるほど、ブランドイメージは固定されがちです。
その固定化されたイメージを覆す試みは、ある意味、冒険と言ってもよいでしょう。
次に挙げるブランドは、その大胆なリブランディングに成功した例ばかりです。大胆な変化の中にも、伝統を忘れない点もポイントですよ。
それでは、早速みていきましょう。
- ブランドイメージを刷新「ユニクロ」
- 伝統と変化「ティファニー」
- 蘇った高級ブランド「バーバリー」
ブランドイメージを刷新「ユニクロ」
安さはそのままに、おしゃれで機能性に優れたブランドに生まれ変わった「ユニクロ」の事例をご紹介します。
ユニクロが全国に店舗を拡大した90年代は、バブルがはじけて消費が落ち込み始めた時期でした。そんな経済状況も相まって、ユニクロの低価格路線は消費者のニーズを捉え、1998年にはフリースが大ヒットしました。
しかし、2000年代初頭まで急成長を遂げたユニクロも、低価格路線が裏目となり、業績が低迷してしまいます。
なぜなら、低価格ゆえにユニクロの商品が普及しすぎてしまい、消費者から敬遠されるようになってしまったからです。
業績の低迷と世界進出を画策していたこともあり、ユニクロはブランドイメージを刷新することを決めました。”Made in Japan”ならではの強みを世界にアピールすべく、リブランディングが進められたのです。
クリエイティブディレクションに佐藤可士和氏を登用し、ロゴマークを英文字とカタカナを併用したシンプルなものに変更しました。高品質な日本のモノづくりをアピールするためにデザインされたロゴは、日本国内はもちろん、世界中のユニクロの店舗で採用されています。
また、オリジナルのフォントも作成し、ブランドイメージの統一を図りました。
さらには、低価格のコンセプトはそのままに、「ヒートテック」や「エアリズム」などに代表される高品質かつ高機能な商品のリリースもリブランディングの後押しに貢献しています。
これらのリブランディングにより、低価格だけのイメージを一新し、おしゃれで機能的な定番ブランドとして、ユニクロはよみがえったのです。
伝統と変化「ティファニー」
ティファニーといえば「ティファニーブルー」と呼ばれる伝統のブランドカラーがおなじみですよね。
ティファニー は長年親しまれてきたこのブランドカラーではなく、ティファニーイエローをブランドカラーとして取り込んで、若い購買層へのアピールをしました。
2021年4月1日にSNS上で「ティファニーイエロー」と呼ばれるカナリアイエローのパッケージを発表したところ、インスタグラムでは約42万の「いいね!」がついたのです。
エイプリルフールの発表だけに、当初は「冗談だろう?」という声もささやかれました。
しかし、その1ヶ月後にビバリーヒルズにオープンしたポップアップストアは外観はもちろん、内装や商品もイエローで埋め尽くされたのです。
従来から、ティファニーは高級感あふれるブランドイメージにもかかわらず、「オープンハート」に代表されるような若い世代にも手が届く商品をリリースしてきたことでも知られています。
その強みに魅力を感じて2021年1月に巨大ブランド企業「LVMH」がティファニーを買収しました。
「LVMH」の買収によって生まれた新生ティファニーは、これまでのティファニーブルーを大切にしつつも、若い購買層へのアピールとして、ティファニーイエローをブランドカラーとして取り込んだのですね。
このティファニーイエローは、1878年に創業者であるチャールズ・ルイス・ティファニーが購入した鮮やかな黄色味を帯びた「ティファニー・ダイヤモンド」が基となっています。
つまり、ティファニーの伝統に裏打ちされた色なのです。
ティファニーのリブランディングは、まさに伝統を受け継ぎつつ、新たな変化を目指したチャレンジといっても過言ではありませんね。
蘇った高級ブランド「バーバリー」
バーバリーは、リブランディングを行い高級ブランドの新たな地位を確立した成功例のひとつです。
1856年創業の「バーバリー」は、トレンチコートに代表される誰もがご存じのイギリスを代表する老舗ブランドですよね。
しかし、バーバリーのもつクラシックなスタイルや老舗ブランドであるがゆえの格式高さによって若い世代からはだんだんと関心を向けられなくなっていきました。
そこでチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるクリストファー・ベイリー氏は、若者をターゲットに「1990年以降に生まれた世代に向けたブランド」としてバーバリーを再定義したのです。
それまでの高級ブランドではブランドの世界観を守るために避けられていたSNSを通じた情報発信に力を入れたのが特徴的です。これがSNSに馴染みのある若者世代に向けた効果的なアプローチとなり、バーバリーの知名度をあげることに繋がったのです。
また、バーバリーは、2018年にチーフ・クリエイティブ・オフィサーの交代をきっかけに、ロゴマークと商品デザインを変更し、大胆なリブランディングを行いました。
2001年から長らく務めてきたクリストファー・ベイリー氏から「ジバンシィ」のデザイナーとしても活躍したリカルド・ティッシ氏に替わって以降、そのクラシックなイメージを大きく覆したのです。
これまでバーバリーは、馬のマークとセリフ(文字の端の小さな飾り)のついた平べったいロゴがおなじみでした。しかし、リブランディングを機に、馬のマークは創始者であるトーマス・バーバリーのイニシャルをアレンジしたものに、ロゴもセリフのない太目の書体に変わりました。
そして、ティッシ氏に交代してから初のコレクションでは、伝統のトレンチコートにもロゴを配置した大胆なデザインが登場して、観衆をあっと驚かせました。
さらには、若い世代へのアプローチとして、ストリートファッションを取り入れたアイテムを次々と発表したのです。
リブランディングによって若い世代へとターゲットを変え、高級ブランドとしての新たな地位を確立したのがバーバリーなのですね。
【企業編】有名企業のリブランディング事例
次に挙げる例は、有名企業のリブランディングの事例です。
国や地域でバラバラな企業イメージを統一したり、ターゲットの絞り込みや見直しを図ったりすることによって、リブランディングに成功した事例をご紹介します。
- 認知度を高めた「ヤンマー」
- 消費者のニーズを捉えた「マツダ」
- ターゲットの変更で大ヒット「ショウワノート」
- 健康ビッグデータ企業になった「タニタ」
どの企業もリブランディングによってブランド力が強化されたことがよくわかりますよ。
それでは、その成功例の数々を見ていきましょう。
認知度を高めた「ヤンマー」
バラバラな企業イメージを「デザインの力」によってまとめあげ、認知度を高めた「ヤンマー」のリブランディングの事例をご紹介します。
2013年に創業100周年を迎えたヤンマーは、より強いグローバルブランドを目指すためにリブランディングを行いました。
と言うのも、ヤンマーの企業イメージは地域によってバラバラでした。日本を含むアジア圏ではトラクターやコンバインといった農業機械のイメージが強かったのですが、欧米では富裕層が乗るような高級船舶のエンジンにヤンマーの製品が多く用いられ、高級なイメージが確立されていたのです。
このように地域によってバラバラなブランドイメージを統一するため、「デザインの力」によって広く世間にブランドイメージを発信したのです。
ユニクロのリブランディングも手がけた佐藤可士和氏によって、ヤンマーの展開する「船舶・農業・建設」といった幅広い分野の製品を表す新たなビジュアルアイデンティティが作られました。
同時に、フェラーリなどを手がけたデザイナーの奥山清行氏やイッセイミヤケの元クリエイティブディレクターの滝沢直己氏を起用し、洗練されたデザインや最新の技術をふんだんに取り入れた製品をつくりあげ認知度をあげていったのです。
ヤンマーはブランドイメージの統一と、洗練されたデザインの製品をリリースすることによって「プレミアムブランド」として広く世界にアピールすることに成功したわけですね。
消費者のニーズを捉えた「マツダ」
わずかな世界シェアを逆手にとって、ユーザーに寄り添ったリブランディングで成功をおさめたのが「マツダ」です。
マツダは「コスモスポーツ」や「サバンナRX-7」などのロータリーエンジン車を実用化した唯一の自動車会社として、優れた技術力で定評がありました。
一方、石油ショックやバブル崩壊の影響などでいくたびも経営危機に見舞われてきました。
それらの経営危機を通じて、マツダはフォードの傘下に入り、フォード主導のもとで経営再建を進めます。しかし、リーマンショックを境にフォードはマツダから手を引くことになり、マツダは自力で生き残る必要に迫られたのです。
マツダの世界シェアは、およそ2%しかありませんでした。そこでマツダは、その2%のユーザーのために特化したクルマづくりを目指すことにしたのです。
2009年、新型車の開発に先立って全世界から5人の熱狂的なマツダファンにヒアリングを行い、忌憚のない意見をもとにクルマづくりに反映させました。
組織改革も行い、部門横断型のプロジェクトチームも立ち上げ、生産方法も見直しました。
そして「魂動(こどう)」デザインによって、どの車種も一目見てマツダ車と判る一貫したものとしたのです。
さらには、2010年に新技術「SKYACTIV・テクノロジー」を発表し、この技術を取り入れたCX-5は、2015年までに100万台の生産台数を記録した世界的ヒット車となったのです。
リーマンショックや東日本大震災の影響で、2009年から2012年の間は赤字に見舞われたものの、2013年から2018年まで5年連続で販売台数が更新され、業績もV字回復を果たしました。
消費者のニーズを的確にとらえたリブランディングを行ったからこその成果と言えますね。
ターゲットの変更で大ヒット「ショウワノート」
大人向けにターゲットを変更することでリブランディングに成功した「ショウワノート」の事例を見ていきましょう。
「ショウワノート」といえば、子供のころ誰もが一度はお世話になった「ジャポニカ学習帳」が有名ですよね。1970年の発売開始以来、14億冊以上もの累計発売数を誇るロングセラー商品です。
しかしながら、少子化による市場の縮小は避けることができず、新たなターゲットの開拓に迫られたのです。
そこでショウワノートは、コンセプトはそのままに、大人向けにリブランディングを図ることになりました。
まずは2018年3月、「愛されつづける名作シリーズ」と銘打って「ミッキーマウス」や「スヌーピー」そして「ムーミン」などといった有名キャラクターを表紙にした大人の女性向けのシリーズをリリースしました。
従来のジャポニカ学習帳のコンセプトを踏襲して、それぞれのキャラクターが登場する作品の魅力について読み物としたのです。
続いて、他企業とのコラボレーションも展開しました。
文具卸業のエムディーエスとは「オトナジャポニカ」を、アニメグッズ販売のアルマビアンカとはアニメ作品「Re:ゼロから始める異世界生活」を皮切りに、数々のアニメ作品とのコラボレーションを果たしました。
ショウワノートは子供向けだった商品を大人向けに変えることで新たな活路を見出し、リブランディングに成功したのですね。
健康ビッグデータ企業になった「タニタ」
次は「健康」をブランドイメージに定めて、リブランディングに成功した「タニタ」の事例をご紹介します。
タニタは、体重計や体脂肪計などといった、健康に関する測定機器を作る企業です。
今でこそタニタは「タニタ食堂」やツイッターの投稿などで、誰もが知る企業となりましたが、リブランディングに取り組みはじめた2000年代中盤以前のタニタは、パッとしたイメージのない企業でした。
なぜなら、体重計などの商品は、いちど購入したらしばらく買い替えることがないからです。そのため、ユーザーは購入した商品がどこのメーカーのものか記憶に残らず、タニタの認知度も低かったのです。
そこでタニタは、メディア戦略に着手するとともに「人々の健康づくりに貢献する」というパーパス(存在目的)を掲げたのです。
メディアに対しては、月に2本ペースで有益な情報を定期的に発信することによって、継続して注目されるようになりました。
そして、レシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」をリリースしたところ、たちまち大ベストセラーとなったのです。「体脂肪計タニタの社員食堂」の大ヒットをきっかけに「タニタ食堂」の出店も開始しました。
それらをもとにタニタは、大手食品メーカーとのコラボレーションを行うなど、健康的なレシピを提供するという新たなブランドイメージを作り上げることに成功したのです。
さらには、2018年に子会社のタニタヘルスリンクが、パートナー企業とともに健康プラットフォームを提供することを発表しました。この健康プラットフォームは、本人から同意を得て集められた健康データをもとに、各個人に合わせた健康サービスを提供するというものです。
2000年代中盤からリブランディングを構築してきたタニタですが、2020年代のタニタは「健康ビッグデータ企業」として、さらなる飛躍が期待されていますよ。
【食品編】身近な商品リブランディング事例
これからご紹介する食品ブランドは、いずれも発売当時は業界の先駆けであったり、画期的な存在でした。
しかし、競合の台頭や購買層の高齢化などでいったんその存在が埋もれてしまいます。
そこで、各企業は長年培ってきたブランド価値を再確認したのです。
それぞれのブランドの価値を活かしつつリブランディングを図ることで、各ブランドは巻き返しに成功しました。
存在価値を見出したのはどういった部分なのか、ブランドごとに特徴があって面白いですよ。
- パッケージやターゲットを見直した「キリンレモン」
- 新規顧客の獲得「ポカリスエット」
- 老舗という価値「湖池屋」
- 懐かしさを活かしたお菓子「ココナッツサブレ」
- ブランド力の向上「祇園辻利」
パッケージやターゲットを見直した「キリンレモン」
キリンレモンは、1928年の発売開始からちょうど90年を迎える2018年4月にリブランディングを行いました。
リブランディングによってパッケージやターゲットを見直し、売上が大幅に増えた成功事例のひとつです。
キリンレモンは2014年にもリニューアルを行っているのですが、その際、若年層にターゲットを定めるべく、パッケージを高校生と共同開発しポップなデザインとしました。
ところが、そのポップなデザインゆえにジャンクなイメージがついてしまったのです。
消費者の炭酸飲料に対する嗜好も変化し、甘さ控えめあるいは無糖の商品を好む傾向にあったため、消費者のニーズとキリンレモンのイメージにズレが生じてしまったのです。
そこで、キリンレモンの発売開始からのこだわりである「着色料や人工甘味料を使わない」点に着目しました。この一貫したこだわりは、昨今の健康志向の強まりや、食の安全性にもマッチングすると考えたのですね。
新たなターゲットとして20~30代の男女、特にナチュラル志向で健康にこだわる女性をペルソナとしました。
パッケージのデザインも、キリングループのシンボルである聖獣「麒麟」を配置し、発売当時のボトルを意識した透明感を強調したものにしました。また、甘さは控えめにして、香りも天然のレモンに近いものに見直しています。
リブランディング後、メインターゲットと定めた20~30代の男女だけでなく、幅広い年齢層にわたってキリンレモンの売れ行きが大幅に増えたのです。
既存のブランド価値を再発見し、ペルソナを具体的に設定したからこそ、キリンレモンのリブランディングは成功したと言えますね。
新規顧客の獲得「ポカリスエット」
ポカリスエットは、1980年に発売開始して以来、大塚製薬を代表するロングセラー商品として現在に至っています。
しかし、日本におけるスポーツ飲料の先駆けでありながらも、競合の台頭によりスポーツ飲料市場は過当競争ぎみになり、さらなる成長が望めない状態でした。
そこでポカリスエットは、新規顧客の獲得をすべく、2015年からリブランディングに取り組んだのです。
まずは、中高生を新たなメインターゲットとし「スポーツ飲料」から「健康的な清涼飲料水」へのイメージチェンジを図ることにしました。
2016年には、中高生向けにツイッターやインスタグラムといったSNSを活用したキャンペーンを展開しました。
そして、翌2017年には「ガチダンス選手権」を開催するとともに、メディアを駆使したCMやキャンペーンで、中高生に向けてアプローチしたのです。
これらの取り組みが功を奏し、ポカリスエットは「青春の味」のイメージを獲得することに成功したのです。
老舗という価値「湖池屋」
日本におけるポテトチップスの老舗という価値を見出して、リブランディングを果たした「湖池屋」の事例をご紹介しましょう。
湖池屋は、1962年にのり塩のポテトチップスを発明し、1967年に日本で初めてポテトチップスを量産化した企業です。80~90年代にかけて「カラムーチョ」や「スコーン」「ポリンキー」といった独創的な商品を発売したことでも注目を集めました。
しかし近年、ポテトチップス市場は、他社との差別化が難しいゆえに低価格競争の状態にあり、湖池屋も他社との低価格競争にさらされていたのです。
その状況に危機感を感じた湖池屋は、2016年10月に企業全体のリブランディングに取りかかることにしました。
「ポテトチップスの老舗」という価値をアピールするために、徹底した改革に着手したのです。
コーポレートマークは家紋を意識したものに改め、全社員へのブランドブックの配布やスローガンの制定による意識改革も行いました。
さらには、社屋も老舗を思わせるたたずまいに改装するなど、徹底したリブランディングを図りました。
リブランディングを行った湖池屋によって生み出されたポテトチップスが「KOIKEYA PRIDE POTATO」です。素材や製法、パッケージにこだわりを持たせた業界最高のプレミアムなポテトチップスを目指すべくリリースされました。
老舗のプライドをかけて誕生した「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、年間40億円を売り上げるほどの大ヒット商品となりました。
リブランディングの結果、湖池屋はポテトチップスをプレミアム化することに成功し、低価格競争から脱することができたのです。
懐かしさを活かしたお菓子「ココナッツサブレ」
日清シスコの「ココナッツサブレ」は、1965年に誕生したビスケット菓子です。
懐かしさはそのままに、コラボレーションなどのさまざまな方法で若年層にアプローチした、ココナッツサブレのリブランディングについてご紹介します。
ココナッツサブレは2013年時点の調査で、顧客の半数以上が50代以上の世代ということが判明しました。若年層の間では「おじいちゃん家にある昭和のお菓子」というイメージも定着していたのですね。
そこで、日清シスコはこの顧客層の若返りを図るべくリブランディングに着手しました。
ココナッツサブレの発売から50周年を迎えた2015年、女性アイドルグループの「私立恵比寿中学(以下、エビ中)」とのコラボレーションを開始しました。
エビ中のメンバーがプリントされたパッケージにバリエーションを持たせることによって、エビ中ファンを中心に話題性をもたらしました。
さらに2016年には、5枚ずつ小袋に入れて小分け化することで食べきりやすいパッケージに見直しました。
これまで家庭の中で消費されてきたココナッツサブレですが、2018年には職場や学校で人にあげるという新たな消費シーンの提案を行ったのです。
リブランディングに着手してから3年で、ココナッツサブレの売上は130%増となりました。
さらに、若年層の間でレトロカルチャーがトレンドとなっていることに着目し、ココナッツサブレの持つ「懐かしさ」を活かした「ニューレトロ」でさらなるリブランディングを図りました。
そこで誕生したのが「ココナッツサブレ<まろやかコーヒー牛乳味>」です。
昭和レトロな銭湯で味わうコーヒー牛乳をイメージした味とし、かわいらしいパッケージで若年層の評判も獲得することに成功しました。
ココナッツサブレは、懐かしさを活かしたニューレトロな商品として若年層にアプローチしたことで新たなターゲット層を獲得したいい事例と言えますね。
ブランド力の向上「祇園辻利」
食の洋風化が進む中にもかかわらず、リブランディングによってブランド力を向上させたのが「祇園辻利」です。
祇園辻利は、江戸末期の1860年に開業以来、宇治茶にこだわり続けている老舗茶屋です。
戦後、特に1970年の大阪万博以降、日本ではコーヒー文化が浸透し、日本茶の消費が急激に落ち込みました。日本茶を取り巻く環境が厳しい中、祇園辻利はいち早く、日本茶の文化を守るための取り組みを行ってきました。
日本茶の文化を再興すべく、1978年に「茶寮都路里」を開店し、人気メニューの「抹茶パフェ」をはじめとする抹茶スイーツを扱うなど、喫茶店のような感覚でお茶を楽しめるお店を目指したのです。
その後も、日本茶を取り巻く環境は大きく変化し、今やペットボトルで手軽に日本茶が飲める時代です。
そんな時代だからこそ、祇園辻利は急須で入れるお茶の良さを伝えていくためにリブランディングに着手しました。
ブランドデザインの統一を行い、日本の文化である「折り紙」をモチーフに商品パッケージのデザインも改めました。
リニューアルされたパッケージは、2011年度のグッドデザイン賞を受賞しています。
その後も、社外からデザイナーを採用したり、マーケティング課を新設したりするなど、インナーブランディングにも取り組んできました。
この取り組みの中から「顧客への気配り」という祇園辻利の強みやマーケティングの重要性を発見したのです。
絶え間ないチャレンジ精神が、祇園辻利のブランド力を向上させてきたのですね。
【スポーツ編】サッカークラブのリブランディング事例
これからご紹介する2つのサッカークラブの事例は、全く対照的なものとなります。
一方は大胆にも伝統を切り捨てて何もかも一新した事例、もう一方は伝統を踏襲しつつアップデートを行った事例です。
それぞれのクラブの置かれた状況が、よく反映されていますよ。
それでは、2つの事例を見ていきましょう。
- 有名サッカークラブのエンブレム変更「ユベントス」
- 伝統の更新「清水エスパルス」
有名サッカークラブのエンブレム変更「ユベントス」
エンブレムは、サッカーチームを表す象徴のひとつですよね。
ましてや伝統的なクラブだったら、古くから使ってきたエンブレムを簡単には変えることはありません。ところが、イタリアの強豪クラブである「ユベントス」は、大胆にもエンブレムをロゴに変更したのです。
強豪選手を獲得するための資金は年々上がっており、莫大な資金が必要となります。そのため、シンプルかつ目立つロゴに変えることで「グッズの収益を増やす」ことがクラブサイドの狙いでした。
2017年1月、ユベントスはこれまでの白と黒の縦縞と牛をあしらった、伝統のエンブレムを捨て去り、ユベントスの頭文字である”J”をモチーフとしたロゴに改めたのです。
今や情報はスマホで仕入れる時代です。細かい絵柄のエンブレムだと、スマホの画面ではどこのクラブか判りづらいでしょう。
大きなJをあしらったロゴとすることによって、ユベントスは、他のクラブとの差別化を図ることができたのです。
この大胆なリブランディングが、収益の増加や新たなファン層の開拓につながったのですよ。
伝統の更新「清水エスパルス」
次は、伝統を受け継ぎつつも時代に合わせてブランドを更新した「清水エスパルス」の事例をご紹介します。
清水エスパルスは、1992年7月に誕生した30年もの歴史を誇るクラブです。
創設25周年を迎える2017年、同クラブは、リブランディングのプロジェクトを立ち上げました。
まずは伝統の再確認として、クラブカラーである「オレンジ」に価値を見出しました。
「OUR ORANGE, OUR SYMBOL」をブランド指針とするとともに、エスパルスオレンジをコミュニティシンボルとしたのです。
続いて、先にご紹介したユベントス同様、清水エスパルスも、スマホの普及によるエンブレムの視認性を課題としました。特に「S-PULSE(エスパルス)」の文字の視認性と、オレンジの量が少ない点において、改善が必要であると考えたのです。
そこで100種類を超えるデザイン案から、ファンやサポーターの意見を取り入れながら検討を進めました。そして、富士山をかたどったシールド上部や、地球儀のシンボルといった伝統を受け継ぎつつ、視認性に優れたデザインにアップデートされたのです。
2020年からは、一新されたブランドイメージで、グッズ展開も行われるようになりました。
ファンやサポーターとともに、時代に合わせた伝統の更新を行うことによって静岡・清水の地に根付いたクラブとして改めて支持されているのです。
【サービス編】ホテルや観光のリブランディング事例
リブランディングを行う際には、何を重要視するのかを明確にする必要があります。
これからご紹介するのは、それぞれ重要視したものを強化した結果、リブランディングが成功につながった事例です。
特に、ホテル業や観光業といった業種は集客がとても重要です。置かれていた状況は違えども、集客力の改善にリブランディングが大いに関わっている点がよくわかりますよ。
- 強みを活かした再構築「スーパーホテル」
- 集客率が上がった「サンリオピューロランド」
強みを活かした再構築「スーパーホテル」
多彩な強みを再構築してリブランディングに成功したのが「スーパーホテル」の事例です。
スーパーホテルは、1泊4980円の手ごろな価格と、立地の良さを強みとしています。
その一方で「LOHAS(Lifestyle of Health and Sustainability=健康的で持続的なライフスタイル)」を掲げ、ホテル業界で唯一のエコ・ファースト企業に選出されるほどの環境にこだわったホテルづくりを進めてきました。
ところが、この両者の強みの間にギャップが生じ、LOHASを受け入れやすい女性や若年層から、スーパーホテルへの関心が得られない状況にあったのです。
スーパーホテルは、顧客満足度は高く、売上も順調でした。
しかし、今後訪れるであろうホテル市場の変化だけでなく、周囲の人に推奨する指標が低かったことに危機感を感じ、2018年にリブランディングのプロジェクトが立ち上がりました。
プロジェクトは若手社員の主導で進められ、経営層から顧客に至るまで、幅広い対象へのヒアリングから始まりました。
ヒアリングは、サービスに不満を持つユーザーに対してもコンタクトを試みるなど徹底したもので、ヒアリングを通してさまざまな意見が集められました。
これらのヒアリングを通して、ブランドの強みや問題点が洗い出され、導き出された結果が「Natural Organic Smart」というコンセプトです。
このコンセプトをもとに、従来の黄色を活かしつつ、ロゴの変更を行いました。
また、館内サービスのシンプル化や館内のインテリアの一新を行い、ナチュラルかつスマートなデザインに変更したのです。
社内においてもワークショップを開催し、課題点を解決するための数々の施策を社員全員で生み出し、実行に移してきました。
その結果、2018年10月にオープンした「スーパーホテルPremier銀座」は、その年の予約が埋まるほどの大盛況となったのです。
そして、スーパーホテルの他の店舗も、高い稼働率を維持するだけでなく、ターゲットとしていた女性や若年層も宿泊するようになり、リブランディングは成功を収めました。
集客率が上がった「サンリオピューロランド」
「サンリオピューロランド」はターゲットの見直しによって集客率が上がった成功事例です。
1990年に東京の多摩市にオープンしたサンリオピューロランドは、屋内型のテーマパークとして人気を博し、翌1991年には約195万人の来場者数を記録しました。しかし、その後は来場者数が100万人台前半を推移する状況で、赤字経営が続いていたのです。
そこでサンリオピューロランドは、2014年にリブランディングに着手することになりました。リブランディングで行ったのは「ターゲットの見直し」です。
これまでのターゲットは、小さな子供のいる家族連れでした。そのため、園内のアトラクションやミュージカルなども子供向けに作られていました。
しかし、ターゲットを大人の女性向けにし、それに合わせて園内のあらゆるコンテンツを見直しました。
例えば、ミュージカルにはイケメン俳優を登場させたり、メインパレードのコンセプトを「大人かわいい」に変える、レストランのメニューには「インスタ映え」するものを追加するなどですね。また、オールナイトイベントを開催するなど、大人の女性に刺さるコンテンツを充実させました。
その結果、2014年には126万人だった年間来場者数は、4年後の2018年には219万人にまで伸びました。
サンリオピューロランドのリブランディングは、ターゲットの見直しにより集客率があがったとても分かりやすい事例ですね。
効果がなかったリブランディング戦略失敗の事例
リブランディングを行ったからといってすべての企業が成功するわけではありません。
これからご紹介する事例は、どれもリブランディングの効果がなかった失敗事例です。
売上が落ちるだけでなく、中には公式に謝罪する羽目になってしまった例も含まれています。
これらの失敗事例から、リブランディングに際して何が足りなかったのかを学ぶことができますよ。
- 消費者に受け入れられなかった「コカ・コーラ」
- 公式の謝罪にまで発展「shiro」不評のリブランディング
- 1200円も値上げをして不評になった「ルナソル」
- 売上高が減少「ウィダーインゼリー」の失敗
- 消費者が困惑した「バーガーキング」のロゴ変更
消費者に受け入れられなかった「コカ・コーラ」
「コカ・コーラ」をブランディングに成功している企業のひとつとして考える方は多いですよね。
しかし、そんなコカ・コーラもリブランディング戦略において失敗をしています。
コカ・コーラ社は、100周年を前にした1985年に、コカ・コーラの味をリニューアルするという大胆なリブランディングを行いました。
リブランディングに至った背景として、コカ・コーラが競合のペプシにシェアを奪われつつあったことが挙げられます。
大規模な味覚テストを行うなど、入念なリサーチのもとリブランディングは行われましたが、消費者からは大きな反発を招いてしまったのです。
コカ・コーラを愛飲する消費者にとっては、従来の味に対する思い入れがとても強く、コカ・コーラ社へは多くの抗議の声が上がりました。
コカ・コーラ社は、ペプシに奪われたシェアを取り戻すことができないばかりか、巨額の損失をも計上する羽目となりました。結局、半年もせずにコカ・コーラは、元の味に戻すことになったのです。
コカ・コーラ社は、新しい味のリサーチに関しては万全でした。しかし「消費者がコカ・コーラに何を求めているのか」を正確に把握していなかったことが、失敗の原因と言えます。
消費者がブランドに求めるニーズや価値を把握した上でリブランディングを行うことの大切さが分かる事例ですね。
公式の謝罪にまで発展「shiro」不評のリブランディング
性急すぎるリブランディングによって消費者の反発を買い、謝罪にまで発展してしまったのがコスメブランドの「shiro」です。
落ち着きのある香りと、その名の通り、白を基調としたすりガラスのボトルのクリーンで清楚なイメージで20~30代の女性を中心に人気を集めてきました。
shiroはブランド創設から10周年を迎える2019年秋に、リブランディングを実施します。グローバル化とダイバーシティの観点から、ブランド力を強化するためのリブランディングです。
ロゴを小文字の「shiro」から大文字の「SHIRO」に、ブランドカラーをネイビーに変更し、パッケージもリニューアルしました。
しかし、すりガラスと白いキャップのパッケージに慣れ親しんできた消費者からは、ネイビーの色調から「シロではなくクロ!?」といった皮肉まで聞かれるところとなりました。
また、リニューアルにあたり、ボディコロンのホワイトリリーとサボンの香りを限定販売のみとしました。しかし、あまりにも性急な変革に、戸惑った消費者からSNSを中心に不満の声が上がってしまったのです。
これを受けて、運営会社であるシロは公式サイト上でお詫び文を公開するまでに至りました。
これを機にシロは、ブランドマネジメント調査を行うなど、顧客との関わり方を見直し、顧客とのコミュニケーションには注意を払うようになったのです。
顧客とのコミュニケーションを通して、顧客のニーズをしっかりと把握することがリブランディングのポイントのひとつと言えますね。
1200円も値上げをして不評になった「ルナソル」
カネボウ化粧品が展開する「ルナソル」は、リブランディングに際して大幅な値上げをしたために不評となりました。
「ルナソル」は「浄化メイク」をコンセプトに1999年に誕生した、カネボウ化粧品のプレステージブランドです。
ブランド誕生から20周年を迎える2019年、よりファッション性を高めるために、ルナソルはリブランディングを図りました。
リブランディングを機に、これまでの上品で控えめなイメージから、ラメやパール、グリッターを取り入れた華やかで鮮やかなイメージに生まれ変わりました。
ところが、このリブランディングに際して、ネイルなどの小物を除いた新作の価格が1000円以上も値上がりすることになったのです。特にアイシャドウは、1200円もの値上げとなってしまいました。
この大幅な値上げによって、SNSなどを中心に不評の声が相次ぎました。
アイシャドウの色味は好評なものの、リブランディングによる値上げによって、ルナソルはユーザーから敬遠される結果となってしまったのです。
売上高が減少「ウィダーインゼリー」の失敗
森永製菓が独自開発のもと1994年に発売した、日本初のゼリー飲料が「ウィダーインゼリー」です。
「ウィダーインゼリー」は、リブランディングにおいてパッケージデザインやカテゴリーを変更してしまったがゆえに、消費者の間で混乱を招き、売上高が減少してしまった失敗例と言えます。
当時、森永製菓は米国ウィダー社と業務提携を行っていたため「ウィダー」ブランドで発売されました。食事と食事の間のつなぎ食として訴求したところ、売上が爆発的に伸び、99年以降、年間200億円台の売上を維持してきました
2014年に発売20周年を迎えたのを機に、ウィダーインゼリーはリブランディングを行います。パッケージのデザインを変更するとともに、ラインナップのカテゴリーも変更したのです。
ところが、パッケージデザインを大幅にリニューアルしたため、これまでのユーザーが商品を見つけづらくなるという現象が発生してしまいました。
さらに、これまでの「エネルギー/マルチビタミン/プロテイン」など機能性を軸にしたものから、「エネルギー/カロリーハーフ/カロリーゼロ」といったカロリー重視のカテゴリーに変更しました。
このカロリー別のカテゴリー分けが、かえって分かりづらさを生み、売上は失速してしまったのです。
その結果、森永製菓はリブランディングから1年後に、元のコンセプトに戻すことに決めたのです。
元のコンセプトに戻した後は再び売上が回復しました。
リブランディングを行うことで、売上高が減少してしまった失敗例というわけですね。
消費者が困惑した「バーガーキング」のロゴ変更
ハンバーガーショップが突然、フライドポテトのお店になってしまったら、皆さん困惑しますよね。話題作りのために行ったリブランディングによって、消費者が困惑したのがバーガーキングの事例です。
バーガーキングといえば、ハンバーガーの形をしたロゴマークでおなじみですよね。
ところが、2013年にフライドポテトをアピールする一環として、名前を「フライズキング」に変更し、フライドポテトのロゴマークに変えてしまったのです。
この冗談ともとれるリブランディングによって、消費者はただ困惑するばかりでした。結局のところ、このリブランディングはわずかな反応すら得ることなく失敗に終わります。
消費者を無視したマーケティングによって、フライドポテトを消費者に押し付けてしまったことが混乱の原因でした。
話題作りとはいえ、消費者を混乱に陥れてしまったのは、リブランディングとして失敗ですよね。
しかし、その後2021年に行ったリブランディングでは、ハンバーガーをかたどったロゴマークはそのままに、シンプルで温かみのあるデザインにリファインされて、好評を得ています。
バーガーキングの事例から、消費者に伝わらない一方的なリブランディングは失敗に繋がる可能性が高いことが分かりますね。
成功事例からわかる!リブランディング戦略3つのコツ
先にご紹介した成功事例から見えてくるリブランディング戦略には、大きく分けて3つのコツがあります。
1つ目は「抱える課題をしっかりと分析する」、2つ目は「ブランドの強みを見つけだす」、3つ目は「最終の目的を明確に定める」ことです。
これらのポイントを押さえることによって、リブランディングを成功に導くことができますよ。
それでは、リブランディング戦略の成功に繋がる3つのポイントについて、詳しく解説していきます。
コツ①抱える課題をしっかりと分析する
リブランディング戦略として、いちばん入念に行わなければならないのは「抱える問題をしっかりと分析する」ことです。
なぜなら、自社の抱える問題をしっかりと分析しなければ、リブランディングが誤った方向性に進んでしまう恐れがあるからです。
リブランディングの目的はブランドの再構築や新たな価値を提供することにあります。つまり、時代の流れや、顧客のニーズに合っていない部分を正確に知り、改善していくことが重要なのですね。
そのためにはまず、ブランドの抱える問題について調査を行いましょう。
代表的なのは、インタビューです。社内外問わず、ブランドの抱える問題点を聞き出すことができるようになります。
社内でのインタビューは、トップから一般社員まで、幅広く行いましょう。特に、普段から顧客と接する機会の多い社員から行うと、顧客が自分たちのブランドをどう考えているのかが見えてきます。
また、顧客に対してはインタビューの他、アンケートも広く意見を集めることができる点において効果的です。
過去にクレームを入れた顧客や、二度と利用しないと決めた顧客にも率直な意見を聞くと、より核心に迫る意見が得られますよ。
コツ②ブランドの強みを見つけだす
リブランディング戦略を成功に導くための2つ目のコツは「ブランドの強みを見つけだす」ことです。
なぜなら、ブランドの強みはリブランディングの核となるからです。
強みがあることで、弱みの補完やポジショニングの見直し(リポジショニング)ができますよね。
また、長期的視野に立ったリブランディングを進めることも可能です。
失敗事例で紹介したコカ・コーラは、消費者から長年愛されてきた味を変更したことでリブランディングに失敗しています。長年愛されてきた味という強みがなくなってしまったがゆえの失敗と言えますよね。
ブランドの強みを明確にすることで、他との差別化や企業のブランド力向上につながりリブランディングの成功に結びつきます。
そのため、ブランドにどのような強みがあるのかをしっかりと把握することが大切なのですよ。
コツ③最終の目的を明確に定める
リブランディング戦略を成功に収めるためには「最終の目的を明確に定める」ことも必要です。
たどり着きたいゴールや理想像が描けなければ、リブランディングにおいて何をすべきかがはっきりとせずブレてしまいますよね。
マツダのように「ユーザーが満足するクルマを世に出す」ことや、タニタのように「人々の健康づくりに貢献する」といったような、明確な目的を定めましょう。
そうすることで、定められた目的を実現化するための方策も具現化されるようになります。
最終の目的が明確であればあるほど、そのリブランディングは成功に近づきますよ。
ブランディングにおすすめの本はコレ!
- 「リブランディングがなかなかはかどらないんだけど、どうすればいいんだろう」
- 「リブランディングの方向性が間違っているかも」
このように、リブランディングでお悩みの方は、もう一度ブランド戦略について考えてみてはいかがでしょうか。
ブランディングにも応用できるブランド戦略について書かれているのがドナルド・ミラーの「ストーリーブランド戦略」です。(※1)
大ヒット映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」を例にあげ、商品が売れるパターンについて分かりやすく解説していますよ。
ブランドと顧客の結びつきを一層深めるための秘訣は、物語のパターンを応用した「ストーリーブランド・フレームワーク」を利用することです。
本書では、ストーリーブランド・フレームワークについて、7つの要素と基本原則をご紹介しています。
ブランド戦略の本ですが、リブランディングにも共通するポイントが押さえられていますので、ぜひご参考にみてくださいね。
(※1)ストーリーブランド戦略|小川忠洋
まとめ
ここまで、リブランディングの成功事例や失敗事例、リブランディング成功のコツについてご紹介してきました。
これまでの事例から、リブランディングが成功するための秘訣をまとめると次のようになります。
- 自分たちのブランドの強みを把握する
- 伝統を忘れない
- コンセプトやターゲットなどを変更する際は、ユーザーへのメッセージを明確にする
- ユーザーとの結びつきだけでなく、社会との関わり方も考える
一方、次のようなリブランディングは、失敗する可能性がありますので注意が必要です。
- ユーザーを置いてけぼりにしたリブランディング
- ユーザーに周知されていないリブランディング
- ユーザーのニーズに合わない大幅な値上げや極端な変更
ただやみくもにリブランディングを行っても、望むような成果を得ることはできません。
リブランディングにおいては、強みや伝統をいかし、ユーザーのニーズを汲み取って寄り添うことが大切になってくるのです。
この記事の事例を参考に、ぜひリブランディングを成功に導いてくださいね。